わたしが尊敬してやまない地域再生プランナー久繁哲之介さんのブログを読んでいたら「ああやっぱりな」と思った。予感が確信に変わった瞬間。そこには、ビジネス書界の巨匠、大前研一さんの痛烈なコメントが紹介されていた。

ベストセラーを書く者も、読む者も、自ら考えず、楽して成功したがる愚か者!

さすが、大前さん。おっしゃるとおりですよ。ワタシは小手先テクニック不要論者として、たとえクライアントの本であったとしても極力テクニックだけの本にしないよう注意してきたのです。

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久繁さんのこの2冊はとくにオススメ。

しかし、だ。同時に、その考えを改めるときが来たのかもしれないなと思った。いわゆる潮時というやつである。決定的だったのは、この3月に企画のたまご屋さんで配信した「ストレス耐性が上がる生活習慣80」という企画が、予想に反してなんと「6社」で取り合いになったのだ。

どんな企画かって? タイトルのとおり、クレーム対応アドバイザーの著者が独自に積み上げた「ストレス耐性が上がる生活習慣」を80個紹介するだけ。そこには、著者のストレスに対する考え方(あり方)などは、みじんも紹介されていない。「大木に抱きつこう」とか「女性誌を読もう」といった内容の話が延々と続くのだ。著者の堀北さんの話はこちらのエントリに書いたので参照してください。

そのうえ、版元からは「こういう企画を待っていたんですよー」と言われる始末。これまでワタシが推進してきた「あり方とやり方のバランスが取れた企画」という図式が、もろくも崩れ去った瞬間だった。

すこし話を戻そう。あり方とやり方のバランスが重要だと教えてくれたのは、今をときめく近藤麻理恵さんの「人生がときめく片づけの魔法」だった。当時20代の女性が人生を語るなんて、恋愛本ならまだしもワタシにはとうてい受け入れられなかった。下馬評は「片づけ本としては後発だし、まあよくて3万部くらいかな」だった。

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しかし、その後のベストセラー街道まっしぐらはみなさんもご存知のとおり。あっさりとトップを独走中だった「断捨離」を追い抜いて、ミリオンセラーになってしまった。その後、仲間由紀恵主演でテレビドラマにまでなってしまい、まさに日本中を巻き込んだ片づけブームとなったのは記憶に新しい。

発売から半年後くらいだったろうか。この本が売れた理由を分析してみた。答えはカバーにあった。ご覧のとおりカバー上段には「人生がときめく」、下段には「片づけの魔法」と配置されている。「これだ」と思った。5:5のバランスが絶妙に取れていたのだ。どちらかの割合が大きくなってはいけないと瞬間的に思った。さっそく出版セミナーで、参加者に聞いてみた。「人生がときめく方法」だったら買うか、「片づけの魔法」という本だったら買うかと。賢明な参加者の答えは、いずれも「NO」だった。

以来、ワタシは「あり方とやり方のバランス論者」と化した。セミナーではこの話を必ず紹介した。この理論がワタシの出版コンサルティングの中核を成すと自負していたくらいだ。

そのバランスが崩れた。わたしはちょっと自信をなくした。出版セミナーは2月末の大阪を最後に開催していない。知人からは「なぜセミナーやらないの?大丈夫?」と心配される始末(笑)。

「ベストセラーは時代の鏡」という言葉がある。書籍の年間売り上げランキングなどは、昨年のものと10年前のものを比較すると一目瞭然。そう、本も生き物なのである。たとえどんなに素晴らしい内容だったとしても、時代に合わなかったら売れないのだ。それだけのこと。

今、ワタシはあらたな出版セミナーのための準備を開始した。それがどんな形になるのかはまだわからない。終戦後の焼け野原から立ち上がった状態とでも理解してくれれば幸いだ。「時代の声なき声」が求める企画は何なのか、もう少し追求してみよう。いずれまた、皆さんにお会いできる日を信じて、もうしばらく水面下で準備をしようと思います。(この話、もう少し続く)